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IMA コラム

Vol.05「避難路を兼ねた災害公営住宅」

カテゴリ: 都市 作成日:2013年12月09日(月)

今回のレポートは「区画整理士会報9月号」に掲載された復興都市研究会の成果の一部です。執筆者を代表者名としていますが、メンバーの分担により執筆したものです。

はじめに

東日本大震災の後、都市づくりに関係する数社の有志が集まり、被災地の課題を対象に研究会を催し現在に至っている。ここに紹介する試案は、所属メンバーが関わる石巻市の復興をテーマに研究会としての提案を作成し、現地関係者にヒアリングを試みているものである。
石巻市は中心市街地沿岸部も津波により被災し甚大な被害を受けた都市の一つである。

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(「空撮ふるさと石巻の記憶」三陸河北新報社より)

その中でもこの南浜地区では多くの人が日和山に登り難を逃れることができた。標高56mになる日和山は海側から見ると確実な避難場所であるが、そこに至る経路は神社の参道を兼ねる急峻な階段のみであり、お年寄りや弱者には厳しい避難路である。

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この参道階段を補強し、継続的・安定的な管理・運営ができる方法はないだろうかということから議論が始まった。

計画の背景「立体都市公園制度」
この検討を始めるにあたり、メンバーより「立体都市公園制度」の適用が効果的ではないかとの提案があった。

元来、都市公園は多様な機能を有する都市の根幹的施設と位置づけられ、都市防災性の向上や地域づくりに資する交流空間の役割も目的の一つとして掲げられている。この「立体都市公園制度」が制定された年に国土交通省の都市・地域整備局は都市公園法運用指針を定め、立体都市公園については地震災害時の避難場所の確保について主旨に明記し、道路・駅・その他公衆の利用する施設と連絡する傾斜路・階段・昇降機のアクセスの確保についても具体的に記されている。
また、この制度は地域開放施設の継続的・安定的な管理・運営を望む地域住民に安心感を与える管理形態であり、バックアップする施策としては相応しいのではないかという結論に達した。

その代表として横浜のアメリカ山公園があげられる。商業ビル内の垂直動線(エスカレーター)を利用して市街地と屋上庭園をつなぎ、立体的に段差解消をして一体化させた例である。


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斜面住宅とブリッジ付き住宅

このような段差解消を集合住宅にて目指す場合、大きく「斜面住宅」と「ブリッジ付住宅」のタイプが考えられる。前者は緩傾斜に適し、後者は急傾斜に相応しい形であり、それぞれの特徴を生かして適用する必要がある。

これらの参考資料として、斜面住宅としては神奈川県青葉台での斜面型マンションの実例を調査した。

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また、ブリッジ付き住宅としては、そのものの実例ではないが、東京都港区の愛宕山を上下を繋ぐ「エレベーターシャフト+ブリッジ」の事例を参考とした。。

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いずれも下部と上部を立体動線としてつないだ実施例であり、これらをもとに立体都市公園制度の活用も含めて検討を重ねていった。

 

石巻市西部市街地の復興計画

現在、日和山のある旧北上川西側では、被災地である南浜・門脇地区で土地区画整理事業が進行中である。メモリアルパークとする南浜と区画整理を行う門脇地区の将来像が示され、その中に避難路と災害公営住宅用地が設ける計画が進められている。

横浜の開港150周年を記念する施設として2009年にオープンした「アメリカ山公園」(写真-7)が、立体都市公園制度により整備された第1号施設で、横浜市は、みなとみらい線の元町中華街駅の駅舎上部にこの制度を活用し、高低差のある山手地区と元町地区のバリアフリー化を目指しました。
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このエリアの課題としては、門脇地区の新たな居住者と広大なメモリアルパークに散在する人々とを、津波被災時においていかに速やかに日和山に避難させるかというという点である。いくつかのルートの一つにこの参道階段があげられるが、急峻できわめて脆弱な避難路といわざるを得ない。

災害公営住宅と避難ルートの兼用はできないか

そこで研究会では、被災時の避難ルートを強化し、あわせて災害公営住宅の日常動線と兼用できないかという試案を、日和山の1/500模型を作成して数案の検討を行い、比較検証を行った。

A案
日和山の山腹に斜面住宅を建設し、その日常動線を、被災時の避難動線として兼ねる案である。斜面型住宅を基本とし機械動線として「エスカレーター」または「斜行エレベーター」を採用し、災害時には地域に開放することで安全な避難路を確保するものである。
ただこの案では斜面の低層部分が急勾配で、施工に難があり、機械動線の負担も大きいことが想定された。
B案
次に斜面低層部分にはブリッジ付き住宅を、上部の緩勾配には斜面住宅を配した混合型を考えた。この案では、斜面住宅の施工を山頂部から行わざるを得なく、上部が神社の境内であることを考えると実現性は乏しいとされた。
C案
最後に斜面低層の急勾配部分のみをブリッジ付き住宅にて代替し、山の中腹までのルートを確保する案を作成し、最も現実的な案であるとされ、さらなる検討を加えることとなった。

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A案

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B案

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C案

C案の実現性の検討

この案については対象敷地が区画整理地域内にある民間所有地を設定し、平面計画としては60㎡の住宅が基準階で3戸、8階建てとすると21戸(1階は駐車場)の規模とした。

垂直動線は住宅用エレベーターと階段によるが、参道階段の途中に接続することにより避難経路の補強としても兼ねることとする。また、参道階段の傾斜改良の可能性も含め、途中のどの位置でも接続することができるよう計画することもできる。エレベーターは屋上までとし、屋上には避難広場を設けそこからブリッジにて山の中腹まで達することとした。

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このように、建物の日常動線を、津波被災時には地域に開放することにより、お年寄りでもゆっくり避難することができる新しいルートとする提案である。

また、安定的な管理・運営を望む地域住民にとっても、公営住宅による共用部管理という安心感を与えるメリットもある。 さらに、何らかの方法で日常でも利用できるようにすれば、地域住民や被災地見学の来訪者にとっても、日和山公園とメモリアルパークをつなぐ新しいルートとしても活用できる。

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参道階段(黒点線)を補強するルート(赤点線)

日和山からの景観を守る

 

山上の日和山公園からは石巻市街地が一望できる。現在山頂の鳥居付近には被災前の景色のパネルが掲げられており、それと現状を比較すると、復興への長い道のりに思いを致さずにはいられない。この試案は区画整理が完了しだいすぐにでも着工可能なものであり、高さも山頂からの視界の妨げにならないような規模である。また、海側から見た場合には日和山の緑に溶け込むようバルコニーや屋上には緑化等の工夫もおこなう必要があると考えている。

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おわりに

このモデルは、「公園」・「避難」・「住宅」という行政の複数部門にわたる提案であり、実現には多くの課題があることも予想される。
ただ、公営住宅に限らず、避難路への助成さえ期待できれば民間住宅でも可能であろう。さらにいえば、この「日和山」にかぎらず南斜面の沿岸市街地ならば若干の修正によりどの町にも適応できるモデルであるといえよう。
この試案をもとに被災地の各地にこのような集合住宅が生まれてくることを願って本稿のまとめとしたい。

 

「復興都市研究会」は以下の数社のメンバーにより平成24年4月の第1回から毎月開催しており、今回の報告は平成25年度第4回(平成25年8月)までの内容を取りまとめたものである。

・URリンケージ
・昭和株式会社
・入江三宅設計事務所
・ランドスケープコンサルタンツ協会
・ヨシモトポール
・松尾工務店
(写真、スケッチは特記なき限り当研究会での作成資料)

 

(都市づくり研究所)