えー 毎度ばかばかしい一席を。
江戸も中ごろとなりますと、八百八町にあまたあります長屋にもあちこちくたびれが目立つようになりまして
大家「おーい皆の衆。この長屋もそろそろ修繕にとりかからねぇとな。」
八 「端っこに住む熊こうが、いささか詳しいとかとか。ひとはだぬいでもらいますか。」
熊 「あっしはあいにくとお屋敷の造作の仕事が入ってまして・・・」
大家「ええぃ。つべこべ言わずにやっておくれな・・・」
というわけで、早速八つぁんと熊さんが組をつくりまして
八 「出入りの「でぇく」が三十両でやると言ってますが」
熊 「目論見書もないのに高い安いといってもはじまらんでしょう。まず目論見書をつくり、段取り踏んで札入れをすることがよかろうかと」
ということで八っぁんと熊さんは夜毎集まり目論見書づくりに明け暮れまして・・・。
熊 「さて目論見書もできて大家さんにも説明したことだし、そろそろ札入れとするか」
八 「越後屋、駿河屋、三河屋などが今まちなかでは評判の「でぇく」だとか」
かくして三河屋が一番札を射止め普請が始まりました。長屋中に足場がかかり、幕がはられ長い間の不自由な暮らしとなりました。
四月十日の後、やっとこさ綺麗に仕上がり・・・
大家「熊さん八っぁんごお疲れさま。目論見書どおりにできあがり皆よろこんでおるぞ。長屋もきれいになったことだし、これを祝って長屋じゅうで祭りでもやることにしようか。」
八 「それでは餅つきなどもして」
熊 「厩の屋根に(この長屋は厩があるのです。)臼など出して」
大家「そうだな。それがよかろう。」
というわけで、おかみさんや子供たちも立ちもたちも集まり「臼」を出し、餅つき、富くじ、茶屋など勢ぞろいで、子供達も集まって大にぎわい。
綺麗になった記念に長屋の絵入りの「よろずや手形」なんかもこさえましたようで。
大家「熊さん、八つぁん。聞くところによると三百年先には長屋も「マンション」など
というこじゃれた名前になって、あまたの修繕話がもちあがることだろうな。」
熊 「それには、しっかりした目論見書と、公正な札入れと、経験豊富な見回り役の三者が揃わないことにはかないません。」
八 「熊こうも三百年の先の修繕にひっぱりだこになり、さぞや儲かるにちげえねぇ」
熊 「いやいや皆さん。「マンション」だけに「ション(損)」ばかりでございす。」
おあとがよろしいようで。
(談子老) |